何にも所属せずに何者でもないことが恐ろしいというのは本当か? 〜無所属の彼方へ〜

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この魂は、何者にもならないためにある。

何にも所属せずに何者でもないことが恐ろしいというのは本当か? 〜無所属の彼方へ〜

・所属しないことは恐ろしい
・何者にも所属できない運命
・無所属の故郷
・無所属を深めて運命は巡り会う

・所属しないことは恐ろしい

誰もが何かに所属して安心していたい。所属して、集団に匿われて、自分が何者であるのかを確かめられた気になって、恐れを抱かずにこの世を渡りたい。

“ぼくは人間だ。ぼくは男だ。ぼくは日本人だ。ぼくは大人だ。ぼくは生きている。”

そんな風に他者に告げることで、人は正体の知れない自分自身を不自然に象ってゆく。

“ぼくは動物ではない。ぼくは女ではない。ぼくは日本以外の所属ではない。ぼくは子供でない。ぼくは死者ではない。”

所属により定義づけられた自己の存在は常に否定をはらんで、ぼくたちを否定的な存在へと押しやっていく。ぼくたちは差異により発生した。ぼくたちは否定により生まれた。

ここにぼくがただ生きているだけでは、ぼくは澄んで、清らかで、透明で、真空なままの存在だ。この世にいないのも同然の存在だ。ぼくがここに生きて、自分ではない何かを求めて、自分とは異なる何かに触れて、ぼくは自分の存在を鏡に映し出すことができる。けれどそのぼくは、既に醜く汚れていたんだ。

誰ひとり否定せずに、ぼくはぼくになれるだろうか。誰ひとりと違わずに、ぼくはぼくを見つけられるだろうか。それは存在の発生に関わる重要な秘密の質問。人は誰も、澄んで、清らかで、透明で、真空なままの存在ではいられないのだろうか。異なりを鳴らしながら、否定を翳しながら、摩擦熱を生じて戦争を起こして生き延びいくしかないのだろうか。

 

 

・何者にも所属できない運命

人間にはなりきれない者の声がする。男にはなりきれない者の声がする。日本にはなりきれない者の声がする。大人にはなりきれない者の声がする。生物にはなりきれない者の声がする。そんな者たちのむせび泣く声を、聞いたことがないだろうか。

恐ろしさのあまり誰もが所属しているようなフリをして、本当の精神は所属を瞬く間にこぼれ落ちて、裸のままの無所属な魂たちが、この世をさまよっている声をあなたは聞かないだろうか。

本当は聞こえているのに、聞こえないフリをしているだけかもしれない。自分自身はそうなのだと気がつきたくないだけかもしれない。はぐれた小鳥は必ず冷たくなって空から落ちるだろう。そんな風に怯える子供のような眼差しが、あなたが真実に向き合うのを妨げてはいないだろうか。

彼岸にも此岸にも立たない者よ。その大河のただ真ん中の孤独な島のように、移ろいながらも生きていている者よ。此岸も彼岸も捨て去った者よ。所属を忘れて清らかに澄んだ者よ。恐ろしさに震えず、ただ孤独を耐え忍んで、自らの運命の音へ、耳を澄ませて立ち向かう者よ。あらゆる境界線を踏みつけたその足の色彩を、あやしがる人々に蔑まされたとしても。あらゆる中点を浮遊するその魂が眩暈を起こして、ふたつの世界に散らばったとしても。

両界に生きる者たちの神聖は、あらゆる人々の根の国に息づいている。所属を捨てて生きざるを得ない者たちの悲しみが、不思議な雨となって人々へ散り注ぎ降り注ぐ。その雨はあらゆる魂を震わせて、そして救う。

 

 

・無所属の故郷

何かに所属したいと祈ることもあった。自分だけが無所属である運命に逆らいたい時もあった。けれど今となってはわかることがある。両界に立つ者にしか、ゆるされない定めがあるのだと。

所属を捨て去り何を思おう。あらゆる人間が所属にしがみつきたい一心で生きるこの世を。所属を退いて何を生きよう。無所属は氷のように冷たい孤独だと、見知らぬ恐れが人々を覆うのに。

何もかもを喪失した果てに現れる、無所属の故郷。誰もがこの世界から生まれてきたというのに。愛することにより身を滅ぼされた先に現れる、真実の愛の住処。ここでしか真理は育たないというのに。

 

 

・無所属を深めて運命は巡り会う

ぼくたちは清らかでいられる。ぼくたちは澄んだままでいられる。ぼくたちは透明でいられる。ぼくたちは真空でいられる。この存在は、否定により成り立つものじゃない。差異により支えられるものじゃない。ここにいるだけで、ここに生きるだけで、生まれ出ずる自分自身を確かめよう。

傷つくのを恐れるあまりに、楽な道へと流れ下る魂たち。生き延びることだけを選び取るため、利のある道へと流れ込む心たち。遠ざかる故郷の風景。けれど彼らを見殺しにはできない。ぼくたちを傷つけて虐げた彼らを導き、果てしない河を渡ろう。

傷つかないために生まれてきたわけじゃない。死なないために生きているわけじゃない。自らの炎によって燃やし尽くされる命なら、真理の道もひとつひとつ近づこう。この世のものではない人になって、最も困難な道を歩んでいく。研ぎ澄まされた感性が引き裂かれるように痛くても、ぼくたちは冷たい河を遡っていく。

無所属を深めて、運命は巡り会う。自分以外誰ひとりとして、生きていることが信じられない道の途上にも、もうひとつの生命が、やがて立ち現れるだろう。

 

 

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