過去を後悔することに意味があるというのは本当か? 〜過去に縛られない生き方〜

 

古い恋の日記を紐解いてみても…。

過去を後悔することに意味があるというのは本当か? 〜過去に縛られない生き方〜

・過去を悔い、未来を思い煩う人々
・宇多田ヒカル「First Love」
・中島みゆき「夢みる勇気(ちから)」

・過去を悔い、未来を思い煩う人々

ぼくたちは過去の行いを後悔し、また未来に不安を抱きながら生活しがちになる。生きているのは今というたった一瞬の焔の中のような時間のうちだけであるのに、不幸なことに人間の意識は、時間というありもしない川の流れを想定し、ぼくたちをその水の中へと巻き込んでしまう。過去や未来に気を使いながら、今を生きるという最も大切なことを蔑ろにしてしまうことは、果たして生きていく上で正しい姿勢だろうか。

旅することは今を生きるということ

考えてみれば未来を思い煩ったって、何ひとついいことなんてありはしない。未来は見えないものだから、どうなるかわからずに人は怯え、不安に駆られ、憔悴するけれど、未来を思い煩ったって思い煩わなくたって、同じような未来がやってくるのだ。未来に戸惑っている人間に、未来を変えるような偉大な力があれば話は別だが、どうなるかわからない未来に惑っている精神なんてその時点で小物感あふれているので、そのような力は皆無だろう。

どうせ未来を思い煩っても思い煩わなくても同じような未来が待ち受けているのなら、思い煩うだけ時間の無駄である。未来を思いあまりに、今という生きるべき時間に、ストレスに押しつぶされたり不安に嘆いたりする時間はものすごく無駄な時間であり、それよりも今という時間だけを見すえて今に焦点を合わせ、真剣に生き抜く方が賢明ではないだろうか。

 

明日雨かどうか心配で夜眠れなくたって、そんなのはお天道様の決めることなので、小さな人間がいくら思い煩おうが心配しようが、降るときは降るし降らないときは降らないのだ。未来への思いがどうせ世界を変えることのできない無力な徒労なら、さっさと安らかに寝てしまう方が健康にもいいと言えるだろう。そしてその方が合理的な生き方だ。

時間が直線であるというのは本当か?

 

・宇多田ヒカルFirst Love

それでは過去を後悔するという点に関してはどうだろうか。

教科書的な、典型的模範的な大人の言い分からすれば、過去の失敗を心に留めておくことで、またそれを反省し考察することで、この先の未来で同じような失敗をしないように学び取ることが大切だという答えが返ってくるだろう。そのような返答は理にかなっているのだろうか。

例えば宇多田ヒカルの日本最大のメガヒット曲「First Love」の中にこんな歌詞がある。

”You’re always gonna be my love
いつか誰かとまた恋に落ちても
I’ll remember to love
You taught me how”

 

普通に文脈通りに読めば、初恋の中でどのように人を愛するのかを知ったので、これからまた誰かと恋に落ちても、あなたが教えてくれた人の愛し方を思い出して、その人を愛せるだろうという歌詞だ。これこそまさに、過去の出来事や反省を活かして、やがて訪れる未来にその知識を有効活用できるという、教科書的な優等生的な文章であると言えるだろう。

発売当時は宇多田ヒカルに対する熱狂がすごくて、10代でこんな大人っぽい歌を書けるなんて天才!という言葉があちこちで聞かれたが、ぼくはそうかなと疑問に思っていた。発売当初はぼくはたぶん小学生くらいだったので、初恋も経験していないような年齢だったが、過去の恋愛を次の恋愛に当てはめて適応できるというその思想になんだか浅はかさを感じていたのだ。過去の恋愛の経験を、人間はそんなにも器用に次の恋愛に充てがうことができるのだろうか。この歌詞は大人っぽいというよりも、10代女性らしい見果てぬ未来の恋愛に向けての未熟さが、魅力的なのではないだろうか。

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・中島みゆき「夢みる勇気(ちから)」

この歌詞よりも、当時40代独身女性であり、そしてそれ以降も独身を貫いている中島みゆきの歌詞の方が含蓄があって味わい深く思われた。それは「夢みる勇気(ちから)」という歌の歌詞の一節である。

”古い恋の日記を紐解いてみても
教科書にはなりやしない また1からやり直し”

 

なんて味わい深い歌詞だろう。そして彼女の生き方を含めて考えるとなんとも説得力のある歌詞であると言わざるを得ない。中島みゆきは国語の先生の免許を持っているのに、彼女の方が教科書的でない、むしろ真逆の歌詞を書いているのが面白い。

過去の恋愛なんて、未来の恋愛のための教科書にはなりやしないのだ。ひとつひとつの恋は新品であり、不可侵であり、過去の恋愛を適応できるほどの器用さと狡猾さなんて、本気で恋する人は持ち合わせていないのではないだろうか。ひとつの恋にすべてを捧げて、終わってしまったらさっぱり忘れて、次の恋には新品のような気持ちで望む精神には、恋をひとつの聖域と見なしている潔さが感じられる。だからこそ簡単には始まらず、簡単には結ばれないだろう。

どんなに過去で経験を繰り返しても、たくさんの国を訪れても、本質的に過去が未来の色彩を上塗りするということがあるのだろうか。確かに過去が役立つ時はある。確かに過去が便利な時はある。けれども、生きるのに本当に大切なことに関して、自分の過去は何も教えてくれない。

生きるのに本当に大切なことは、目に見えないし、ひとつの答えすら出さないのだ。人はそれを、生きる度に反芻し、答えられたかなと思ったらまた迷って、まるで人生の中でも、記憶と忘却を繰り返し、輪廻転生を描くように、ぼくたちは旅を続けていく。

過去をどんなに後悔したって、それを修正できることはない。未来をどんなに思い煩ったって、なにひとつできることはない。今という瞬間を生きることの大切さが、仏教でも聖書でも説かれている。

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