あまりに深い罪を担いながら生きるあなたへ。
この世で最も深い罪は永遠にゆるされないというのは本当か?
・宮古の海に凍りつく罪
・罪は永遠にあなたをゆるさない
・巡り会うはずもない絶海の孤島
・この世で最も深い罪はどのようにゆるされる
・罪の冰、赦しの雨
・宮古の海に凍りつく罪
碧い海に包まれた宮古島の地で、この世でもっとも深い罪に出会った。その罪はあまりに深く、そして大きく、美しい海の碧色さえも褐色へと翻った。
その罪は嘘をつくよりも、物を盗むよりも、傷をつけるよりも、春を売るよりも、人を殺すよりも、はるかに重い罪だった。
あまりに深い罪を背負ったあなたは、もはや生きることすらままならなくなり、夜の宮古島の闇の中へと消えていった。どこへ行ったのか行方もしれない。
ただその罪がまるで穢れであるように、ぼくもあなたを退け、罵り、憎み返した。あなたへの憎しみは本能のように、あなたに散りそそぎ、降りそそいだ。あなたの飲む薬の名前も、あなたが侵された病気の名前も、宮古の湿潤な風の中へと消えていく。
この一生の中ではもう二度と、巡り会わないのかもしれない。けれどそれがふたりの幸福であるかのように、夏の宮古の太陽は燦々と輝いていた。あなたの裏切りの色を、ぼくは世界から消すことはできない。
罪は時間が経てば失われると人の世は言う。けれど宇宙の中に保存される罪もあるのだろう。この罪は決して消えはしない。ぼくが忘却し、あなたが忘却し、人々が忘却し、自然が忘れ去っても、決して消えない罪が、この世にはある。
永久に凍りついた氷のように、透明で清らかな光を反射させては偽物の正しさを見せつける。あまりに深い罪は、無限大に飛翔し、輪廻転生を成して、あまりに善良な正しさへと姿を変えるのだろうか。
時が経てばゆるされる罪なんて、真実の罪ではない。どんなに時を超えても、どんなに国を超えても、この一生が終わってさえも、なお永遠に保存される真実の罪を、あなたは担っている。
・罪は永遠にあなたをゆるさない
それならばあなたは永遠に、生きてからも死んでからも、深い罪に苛まれ続けなければならないのだろうか。あなたが毎日飲む薬も、病に侵された精神の荒廃も、すべてはその代償だろうか。
ゆるされないあなたが悲しい。あなたが美しいことをぼくは知っている。失われていくあなたの人格を眺めながら、時の経ることを憎らしく思う。あなたはこの世でもっとも深い罪の担い手。それ以上の意味も、それ以下の意味もなくして、彷徨いたどり着いたのは宮古の碧色。穢れなき罪深いあなたを、海は常に抱きとめてくれる。
ぼくはあなたをゆるさないもの。永遠にあなたをゆるさないもの。世界はあなたをゆるさない場所。永遠にあなたをゆるさない場所。
どんなにこの世で裁かれようとも、どんなに罪を償おうとも、罪はあなたの根源に根差し、洗い流した清らかな肉体を、根源から罪で染め侵していく。逃げる手筈を企てようと、あなたに免れる術などない。
この世で最も深い罪は、どのようにゆるされるのか。植え付けられたおそれを解き放つ光も、赦され川を渡る弘誓の船も、あなたには決して与えられない。ゆるされないあなたが悲しい。本当はあなたが美しいことを、ぼくは知っている。
・巡り会うはずもない絶海の孤島
縁は不思議に絡み合う糸。この世で巡り会うはずもないものが、この世ではないかのように巡り会う。神々の音楽が聞こえる、能の神楽坂でふたりは出会った。坂は、この世とあの世の境界。夢か現つか見知らぬ異郷で、ふたりは出会った。
そしてぼくたちは、もう一度巡り合った。それは碧い海に支配された絶海の孤島。何もないことと、何もかもがあるということが入り混じる。ぼくたちはもう一度巡り合った。
縁は不思議に絡み合う糸。出会うはずのない場所で、縁のない人々が巡り会う。どこで生まれてきたのか、どのように生きてきたのか、問わなくても分かりあうように、無意識の領域が重なり合う。
二度と出会わないという運命は、定めによってゆるされない。ぼくたちはもう一度巡り会った。願わなくても、巡り会った。罪深いあなたの目を、引き裂くように眺めながら。
・この世で最も深い罪はどのようにゆるされる
この世で最も深い罪は、どのようにゆるされるのか。その答えはさがそうとしなくても、宮古の島が教えてくれる。琉球諸島の言葉を持たない神々が、受容体を持つ者にだけ教えさとす。
それは下地島に降り注いだ。真夏の通り雨、真夏の通り池。そこには島の母胎がある。子宮から魂たちが出発する。それは珊瑚の崖の奥深くに、誰の目にも止まらずに眠っている。ふたりが神秘を感受する場所。それをまるで予め知っていたかのようだ。
ゆるし合わないぼくたちは、珊瑚の崖の上で通り池を眺め立ちすくむ。その色彩はまるで宇宙のよう。ここでは子宮の中の音が聞こえるという。子宮の音、ぼくたちの根源の音。あなたの根源に根ざす奥深い罪が、根源の音と重なり合う。
〜海はぼくたちすべての生命の根源 海はぼくたちすべての生命の子宮〜
まさにその時に、この世に雨が降り注いだ。清らかな雨が降り注いだ。ぼくたちは珊瑚の石の上で、滑落したら死んでしまう崖の上を、なんとか伝って洞窟へと入り込んだ。
けれどぼくたちは降り注がれたかった。疑うことなく、宮古の雨に降り注がれたかった。ふたりに通じる共通の祈りが何を意味しているのか、ふたりにはもう既にわかっていた。
・罪の冰、赦しの雨
この世で最も深い罪は、この世で最も簡単な出来事によってゆるされる。それは宮古に突如として降る雨。どこにでもありふれたものたちに洗い流されて、この世で最も深い罪たちはゆるされる。
それは決して、矛盾していない真実。最も深いものたちには、最もありふれた簡単なものを。ぼくたちの感性は知っていた。この雨によって、罪がゆるされることを。
償いことによりゆるされることもある。罰せられることでゆるされることもある。けれどあなたは雨によってゆるされた。宮古に降り注ぐ、清らかな雨によってゆるされた。
それはなんて、この世で最も美しい真実。永遠に融解しない氷のように閉ざされた永久の罪の向こうには、きっと安らかな浄土が待っている。
この世で最も深い罪によって、苛まれている者たちよ。宮古の清らかな雨によって、ことごとく洗い流されなさい。