この世は勝ち組と負け組で分けられるのは本当か?

 

中島みゆきの歌はいつも、弱者への視線で溢れている。

この世は勝ち組と負け組で分けられるのは本当か?

・中島みゆきの新曲は「進化樹」
・「倒木の敗者復活戦」はオリジナルアルバム「常夜灯」の一曲
・この世は勝者と敗者で分けられる
・果てしなく続く競争の果てしない愚かさ
・負けた者は幸いである

・中島みゆきの新曲は「進化樹」

中島みゆきの新曲「進化樹」と「離郷の歌」が、テレビ朝日系ドラマ「やすらぎの刻〜道」の主題歌として4月にはテレビで発表されるようである。「進化樹」と「離郷の歌」という名前以外は、詳細な情報はなにひとつないままだが、中島みゆきの歌には木に関するものもたまにあるよなぁと、「進化樹」という言葉を聞いてふと思い当たったので、ここで紹介していこうと思う。

中島みゆきの樹木をテーマにした歌には、一体どのようなものがあるだろうか。

 

 

・「倒木の敗者復活戦」はオリジナルアルバム「常夜灯」の一曲

中島みゆきの樹木の歌としてまず思い浮かぶのは「倒木の敗者復活戦」という曲である。この曲は、中島みゆきの39枚目のオリジナルアルバム「常夜灯」の中のアルバム曲のひとつだ。またその後にはベストアルバム「前途」の中にも収録されることとなる。

アルバム曲のひとつではあるものの、例によってかなり核心的な曲であり、中島みゆきコンサート2010「縁会」でもクライマックスに設定されているような曲である。しかもこのコンサートのクライマックスは、あの名曲「時代」と当時新曲だった「倒木の敗者復活戦」の2曲なのだから、中島みゆきの現役感、過去の名曲にしがみつかずに今という時代を歌い抜き生き抜いている姿勢が感じられて感動的だ。

あの1970年代の名曲「時代」の後に歌ったとしても全く遜色ない2010年代の新曲をなお今も書き続け歌い続けているという事実に、ひたすら圧倒させられる。彼女のように長い時代の中を本当の意味で走り続けられている歌手が、この国に他にいるだろうか。たまたまずっと感性と創造力の衰えない彼女の歌を好きだったことを誇りに思うし、自分の人生のお手本にもしなければならないと気の引き締まる思いである。

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・この世は勝者と敗者で分けられる

”打ちのめされたら 打ちひしがれたら
値打ちはそこ止まりだろうか
踏み倒されたら 踏みにじられたら
答えはそこ止まりだろうか

光へ飛び去る翼の羽音を地べたで聞きながら…”

「倒木の敗者復活戦」はその名の通り、敗者の人々を倒木に見立てて感動的で普遍的な歌詞を編んだ内容となっている。

”叩き折られたら 貶められたら
宇宙はそこ止まりだろうか
完膚なきまでの負けに違いない
誰から眺めても…”

中島みゆきの歌詞は、いつも弱者や敗者への視線で満たされている。人間というものは、なんでもふたつに分けたがる。男と女、暑いと寒い、生と死、そして、勝者と敗者。世界をふたつに分け隔て、分裂させては、比較し、相対化して、絶対的に精一杯生きるための魂をないがしろにして、戸惑い、嘆き、生きることに怯えている。しかしどんなに主張したところで、人間のふたつに分け隔てるという性質は変わりはしない。

あいつは負け組だとか、あの人は勝ち組だとか、相対的に分けながら、他の人間を不確かに裁き、評価しながら、それを自分と比べては、優越感に浸ったり、焦燥感に駆られてたりしている。

 

 

・果てしなく続く競争の果てしない愚かさ

このような勝者と敗者の分裂はどこまで続くのだろう。よくよく考えてみれば、ぼくたちはこの世界に誕生できた時点でかなりの勝ち組だ。なぜならお父さんから解き放たれた1回の射精につき数億匹の精子の中から、とてつもない駆けっこの競争を勝ち抜いて、一等賞でお母さんの卵へとたどり着き、この世に生まれて来られたのである。これが圧倒的勝者ではなくてなんと表現できるだろうか。この世のすべての人間は、とてつもない勝者たちである。

そのような偉大な勝利をおさめたにもかかわらず、生まれてからもまだ競争しなければならないなんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるのではないだろか。人間たちはその事実を一体どのように考えているというのだろか。生きるということは、生命の営みというものは、このように果てしない競争の連続で成り立っていくのだろか。それならばもしもこの社会での競争に立ち抜いたところで、精子でせっかく勝利したのにまた競争の波に飲み込まれたように、さらなる次の競争が待ち構えているに違いない。そしてそれに打ち勝てば、また次競争が待っていることだろう。

次の競争、次の競争、この果てしない生命という競争の無謀さを、誰か悟るものは現れないものだろうか。その競争に勝利したからといって、幸福が訪れるということは決してない。もっと勝たなければもっと勝たなければと、麻薬のように勝利に麻痺させられ、やがて身も心もボロボロになるまで競争を続けるのだろうか。そしてそこに幸福がないというのならば、人間の生きる道はただひとつ。愚かな果てしない競争から脱出することではあるまいか。

 

 

・負けた者は幸いである

競争から抜け出す道は、救済の道である。その道を渡ることができるのは、敗者でなければならない。傷ついたものでなくてはならない。打ちのめされたものでなければならない。なぜなら勝者は目が眩んでいるから。勝利という光に翻弄され、賞賛に驕り高ぶり、さらなる栄光を得ようと終わりのない無為な競争に巻き取られ抜け出せるはずもないからである。

”望みの糸は切れても 救いの糸は切れない
泣き慣れた者は強かろう 敗者復活戦

あざ嗤え英雄よ 笑うな傷ある者よ
傷から目を出せ 倒木の復活戦”

精一杯に生き抜いた後で、どうしようもなく負けた者は幸いである。そこには一筋の救いの道が用意されている。弱いということで身を守らず、傷ついたということを見せびらかさず、ただひとりきり、孤独の暗闇の中で自らを深く洞察し、光を見出そうという魂があるのなら、負けた者は幸いである。そこでは燃え盛るような、生命の遡上の歌声が聞こえる。やがてはすべての生命の源流へと帰りつく。

 

 

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