もうひとりのあなたがすぐそばにいる。
人間が孤独だというのは本当か?
・ぼくたちの運命的な孤独
・ぼくたちは誰もわかり合えない
・ぼくたちは孤独になることができない
・硝子の中の少年
・ぼくたちの運命的な孤独
生まれてから死ぬまでたったひとりで生きられる人はいない。人は誰でも、他人と関わり合いながら、つながりあいながら生きていく。それは自分自身を見ていても、周りの人々を見ていても、簡単に理解できる事実である。
しかしだからと言って誰もが、孤独でないことに満たされているということはありえない。誰もが時に自分は世界でひとりぽっちなのだという思いを抱きながら、誰もが人は自分のことをわかってくれないのだと嘆きながら、孤独という名のもとを生きていく。
人は必ずひとりでこの世に生まれてくる。そして必ずこの世をひとりで去っていく。たとえ言葉の上で若者たちが「永遠」というものを誓おうとも、そのような誓いは誰にでも訪れる死という出来事によって、簡単に破られてしまう。
どんなに愛し合った人であろうとも、永遠に伴うことなどありえない。輪廻転生がもしもあるというのなら、生まれ変わってもまた巡り会うこともあるかもしれないが、それさえもまた次なる死によって分け隔てられてしまう。
輪廻転生の輪の中を、永遠にお互いをさがし彷徨う定めなら、むしろ永遠など誓わずに、ほんの一生の愛だけを誓うのはどうだろうか。
・ぼくたちは誰もわかり合えない
ひとりで生まれてひとりで死んでいくのが人間の定めなら、その間の人生の時間でさえ、どんなに人と関わり合っていようとも、真実はただ孤独の中にいるのではあるまいか。誰かを触れ合えることをかろうじて支えにしながら、誰もが孤独の闇の中を手探りで歩いていくことが生きるということだろうか。
肉体が結ばれかたらとて、話が合って楽しかったからとて、生きるという深遠なる孤独に光があまねく照らされることはありえない。ぼくたちはこの一生の中で、本当にわかり合える人など、たったひとりでも巡り会えれば、それはとても幸運なことではないだろうか。
むしろこの一生の中で、誰ともわかり合えずにすれ違うばかりで終わっていく、そのような人生の方が多いのではないだろうか。人間には友達がいる、家族もいる、恋人もいる、知り合いもいる。自分を取り巻く豊富な人間関係の中で、本当にわかり合えたなんて感じる瞬間が果たしてどれほど訪れるだろう。
そしてそのような瞬間は滅多にないからこそ、それが訪れた時に、人は本当に幸福になれるのかもしれない。まるでもうひとりの自分自身に巡り会えたように。
・ぼくたちは孤独になることができない
ぼくたち人間は、どんなに他人と関わろうとも、どんなに関係を結ぼうとも、結局は孤独という闇の中に放り込まれてしまう。それでは人は本当にひとりぽっちで生きていくしかないのだろうか。他人とわかり合えたふりをして、他人と会話したふりをして、本当は、真実のところでは、その人生の一瞬たりとも他人の心と触れ合わずに、一生を終えてしまう運命だろうか。
ぼくは自分をわかってくれる人の存在を確かに感じる。その人がいるからこそ、ぼくは孤独の闇の中でもここまで生きてこられたのかもしれない。彼はどんなに人間関係が移り変わろうとも、必ずすぐそばにいる。どんなに国や時代が変わろうとも、裏切ることなく傍らで話しかける。彼はぼく自身の姿。彼は鏡の中にいるぼく自身である。
自分自身がそばにいてくれるという感覚を、誰もが持ち合わせているのだろうか。彼はいつもぼくのそばにいて、ぼくに語りかけ、ぼくに教え、ぼくに歌を歌い、そして共に眠る。
彼の姿を見たことはないけれども、きっと少年の姿なのだろうと思う。あるいは少年へと変わる前の動物の姿かもしれない。自然の中にたたずむ、石や木や水の姿かもしれない。それは精霊かもしれない。
この肉体が時流にさらされて、どんなに変化しようとも、彼に時が流れるなどと、誰が決めつけることができるだろう。彼のそばには時が流れない。凍り付いたように移り変わらない真空の宇宙に、彼は浮かんでいる。傷ついた時には、誰もが彼のもとへ帰っていく。彼の居場所を知らなくても、夢の中を遡っていく。
わかり合える人がたったひとりいるなら、人生はそれでいいと思いませんか。そしてそれは他人でなくても、いいとは思いませんか。たったひとりは、誰にさえ与えられている。それはまるで贈り物のような、神様からの贈り物のような。
それは鏡の中の自分自身。あなたの根源という正体。
ぼくとあなたが異なるなどと、誰が決めつけることができたのだろう。誰もが本当は繋がっている。夢の中では繋がっている。ぼくの根源を手繰り寄せて、あなたの根源へと導けば、ぼくたちの根源は繋がっている。根の国のもとでひとつとなる。
・硝子の中の少年
硝子の中の少年
息をしていない
息をしてしまえば
時が経ってしまうから
時の流れからはぐれて
生きることを選んだ
閉ざされて 囲われて
傷なんか知らない
硝子の城の中から
無常の世界を見ている
硝子の城は常世の宮
現し世の音も響かない
少年はまた
男にもならず 女にもならない
少年はただ少年のまま
何も知らない少年のまま
現し世の者は皆
男か女に分かれていった
ひとつのままであるべきものが
不完全なふたつに分かれた
そして永久に理解し合わないまま
距離のある歩みを進める
少年は分けられたくない
不完全な1/2には
どちらの心も知りながら
悠久の時を跨ぐ
硝子の中の空間
少年以外の誰もいない
硝子に己の顔が映る
さみしくてそれを見つめる
ひとりでは生きていけないこと
知らぬまま硝子に閉じ込めた
誰かと共に生きたくても
誰もいないから
鏡の中の彼が親友
鏡の中の彼が恋人
その他には
誰にも出逢えなかった
さみしくない ほんとうに
悲しくない 永久に
硝子の向こうにあいつがいるから
一度も触れられはしないけれども
硝子の城には法律がない
少年の心そのものが法律
彼の中 彼は世界の王となり
清らかな誇りを掲げる
彼が望みに頷いた時
硝子の中の彼も頷く