幼い弟が人間の尊厳を踏みにじられて号泣していました。
小さな子供でも人間としての尊厳を持っているというのは本当か?
・ピンクの大きな赤ちゃん用のお風呂
・ピンクのお風呂は水槽と成り果てた
・家族みんなでビデオ鑑賞
・川の生物と一緒にされ人間の尊厳を傷つけられ号泣する弟
・ピンクの大きな赤ちゃん用のお風呂
ぼくの家には赤ちゃんのためのお風呂がある。おばあちゃんが買ってくれたピンクの大きな風呂桶で、それをぼくたち孫は赤ちゃんのときに代々使い続けてきた。いちばん最初に使ったのは3つ上のいとこで、それから1つ上のいとこ、ぼく、2つ下の妹、8つ下の弟が使い、もう赤ちゃんも生まれなくなったので、その大きなピンクの風呂桶は使われなくなった。
使用されなくなったピンクの大きな風呂桶は、もったいないからという理由でお父さんが川でつかまえてきた魚やえびなんかを入れて買い始めた。中に小石やレンガを敷き詰めて、水草を浮かべてさながら川の中のような環境に仕立て上げ、お父さんもぼくたち子供も、川の生き物たちのための快適に過ごせる空間ができたと満足していた。赤ちゃんのお風呂はいつしか、川の生物たちの大きな水槽になったのである。
・ピンクのお風呂は水槽と成り果てた
ぼくの8つ下の可愛い弟は、それを何の疑いもなく眺めては楽しんでいた。当然のように遠い昔の赤ちゃんの時のお風呂の思い出も消え去り、年下の赤ちゃんがそのお風呂を使っている場面を見た経験もない彼にとって、そのピンクの風呂桶とは、すなわち川の生物たちの水槽のことであった。まさか魚やエビがうようよと生活しているそのピンクの風呂桶で、赤ちゃんの頃自分の体が綺麗に洗われていただなんて想像もつかないようだった。彼はそれがかつて、赤ちゃんのためのお風呂だったことを知るよしもなく、ただ水槽としてその風呂桶に親しみを覚えていた。
・家族みんなでビデオ鑑賞
事件はぼくの弟が、小学校に入った頃に起こった。みんなで昔に撮影したビデオを見ようということになったのだ。ぼくの家では弟がちょうど生まれた時くらいにビデオカメラを購入し、主に弟の赤ちゃんの時期の成長記録として、そのビデオカメラは役立っていた。当然そのビデオを回せば、主役としてよく出てくるのは弟の赤ちゃんの時の姿だ。
最初は生まれたての弟がお宮参りをしたり、可愛く笑ったりする場面を見て、ご機嫌な弟だったが、突如として彼の赤ちゃんの時の入浴シーンが映し出された!ピンクの大きな風呂桶に、弟が裸になりおじいちゃんに抱きかかえられながら体を洗われている。弟以外は誰もがそれを、懐かしい微笑ましい場面としてとらえ何の問題もなく鑑賞していたが、弟は顔が青ざめショックのあまり号泣し出した!
・川の生物と一緒にされ人間の尊厳を傷つけられ号泣する弟
弟にとってピンクの風呂桶は川の生物たちの水槽なのだ!赤ちゃんの時の自分がなぜか裸になって川の生物たちの水槽に入れられ、体を洗われていたという事実にかなりの衝撃を受け、自分は人間なのにどうして川の生物たちと同じように扱われているのかとものすごくショックを受けたようだ。
小学生の弟はそれはそれは泣きまくり、1時間経ってもその号泣は止むことがなかった。ぼくたち家族はと言えば、そんな弟の予想外の号泣が面白すぎて弟が泣いている隣でずっと笑っていた。弟があの水槽はかつて、人間の赤ちゃんのお風呂だったことを知らなかったのも面白かったし、自分が川の生物の水槽に投入されていた歴史を知り人間としての尊厳を奪われたような気分になっているというその現象もおかしかった。あんなに小さかった赤ちゃんも、小学生に入ると人間としての尊厳を保つほどまでに成長したのかと、誇らしく思った。
弟はそれはそれは泣き叫び、ビデオを止めてビデオと止めて懇願し続けた。ビデオを止めると号泣はおさまり、弟も今見たことはなかったことにしようと自分自身を納得させ、心の平穏を得たようだが、ぼくたち家族はその様子がおかしすぎて、試しにもう一度弟の入浴シーンを再生させると、ものすごい勢いで再度号泣し始めた。
もうこのビデオは弟の前で見ることはできないなぁと、ぼんやりとさみしく思った。