あのタタラ場の内部のモデルは、実は中国の写真だった?!?!?
実は中国がモデル?!映画「もののけ姫」のタタラ場のモデルは島根県「菅谷たたら山内」だというのは本当か?
・映画「もののけ姫」に登場する日本の伝統的な鉄の製造法「たたら製鉄」
・中心に巨大な炉を構えた「菅谷高殿」はまさにもののけ姫の世界!
・「菅谷たたら山内」は映画「もののけ姫」のモデルになったというのは本当か?
・宮崎駿監督の幼い頃の鍛冶屋の思い出と鉄づくりに関する言及
・映画「もののけ姫」の中の高殿内部の様子と、島根県の実物の様子は異なっていた
・タタラ場の溶解炉のイメージは、中国の大躍進時代の溶解炉
・ジブリ映画は事実とファンタジー要素が入り混じっている
目次
・映画「もののけ姫」に登場する日本の伝統的な鉄の製造法「たたら製鉄」
日本の伝統的な鉄の製造法に、たたら製鉄がある。宮崎駿監督のジブリ映画「もののけ姫」でも室町時代のタタラ場が物語の中心的舞台となっている。映画の中ではタタラ場が人間の文明世界の象徴、シシガミの森が太古からの神々の超自然的世界として対照的に描かれている。日本の歴史の授業でも習ったことはなかったが、たたら製鉄が古来からの重要な産業として日本の歴史に深く刻まれていたのは間違いないようだ。
しかし今の時代を生きているぼくたちはたたら製鉄なんて見たことがない。もちろん「もののけ姫」に出てくるタタラ場のような神秘的な風景を今まで生きてきて見たことがない。それもそのはずで日本の伝統的製法であったたたら製鉄は明治時代に西洋の鉄の大量製造の技術が導入されたことにより、1923年に商業生産を終えてしまったのだという。
それではもうぼくたちは「もののけ姫」のようなタタラ場の舞台を決して見ることはできないのだろうか。日本の製鉄を支えてきた優れた伝統的方法の姿を、もはや決して確認できないというのはなんだかいたたまれない気持ちだ。
実は島根県にはたたら製造が行われていた「高殿(たかどの)」が、日本で唯一現存しているという!鉄づくりのための炉などの施設とそれを覆う建物のことを高殿という。ぼくが映画「もののけ姫」の中で最も印象に残っているシーンのひとつは、タタラ場の女たちがふいごを踏んで労働している場面だが、あの労働している建物こそが鉄を作るための高殿だ。島根県のその高殿の名前は「菅谷高殿」と言い、「菅谷たたら山内」という集落内にあるという。「日本海沿いを北上する旅」の中で島根県を深めたいを思っていたぼくは「菅谷たたら山内」を訪れてみることにした。
・中心に巨大な炉を構えた「菅谷高殿」はまさにもののけ姫の世界!
「菅谷高殿」の内部は広大な空間が広がっていた。たたら製鉄の過程では炎が燃え盛るので、火事にならないために天井がかなり高く作られている。真ん中には年度で作られた「炉」が堂々と横たわっている。この炉の中に砂鉄と木炭を入れて、ふいごで風を送ることにより内部を高温に保つことで鉄が作られる。砂鉄とは化学的には酸化鉄であり木炭という炭素と一緒に入れて高温にすることで、酸化鉄が還元されて鉄が作られるという仕組みだ。
砂鉄と炭が床に堆く積まれている。
ぼくは映画「もののけ姫」の中で女たちが踏んでいる風送りのふいごがどのようなものが見たかったが、残念なことにここにはふいごは残っていないということだった。それでもこの「菅谷高殿」の内部を見学することで「もののけ姫」内のタタラ場の様子がリアルに実感できるような感覚になってとても心満たされるものがあった。古来からの日本伝統の製鉄の様子を目の当たりにすることで、自分自身の祖国の真髄に触れるような思いがした。
・「菅谷たたら山内」は映画「もののけ姫」のモデルになったというのは本当か?
「菅谷たたら山内」が映画「もののけ姫」のタタラ場のモデルになっているという噂がインターネット上にあふれているが、果たして本当だろうか。宮崎駿本人がそのように言ったのだろうか。
ジブリの公式ホームページには映画「もののけ姫」で大いに参考にした場所としては屋久島と白神山地としか明記されていない。しかし宮崎駿監督も実際にこの周囲を訪れたといい、日本で唯一残っているたたら製鉄の建築物の遺産がこの「菅谷たたら山内」であるならば、この場所が「もののけ姫」のタタラ場やその建築物の参考やモデルとなっていると考えるのは自然なことだろうと思われた。参考にしようにも実際に残っているのはここしかないからだ。
・宮崎駿監督の幼い頃の鍛冶屋の思い出と鉄づくりに関する言及
戦後宮崎家は疎開先から宇都宮に戻り、宮崎駿は小学校に入った。その通学路には、2件の鍛冶屋さんがあったという。宮崎駿は「もののけ姫はこうして生まれた」の映像の中で、鉄づくりについて次のように語っている。
鍛冶屋はそのあとも見るの好きでしたね、ずーっと見ていられた。作るっていう意味では鉄って一番作るっていう感じがする。鍛冶屋っていう職業に憧れていた時期があった。村の鍛冶屋はいいなぁと思って。
だから鉄を作るっていうことについてもはじめは肯定的に、山の中で漂白しながら鉄を作っている人たちに対する敬意を込めた興味があったけれど、だんだん年をとってくると、鉄を作るっていうのがどういう意味を持ってくるのか、色々難しいことを考えなければならなくなった。同じモチーフだけれど、だいぶ受け取り方が変わった。
どうやら幼い頃から鉄づくりに興味を持っていたようだ。
・映画「もののけ姫」の中の高殿内部の様子と、島根県の実物の様子は異なっていた
しかし映画「もののけ姫」の中のタタラ場の風景は、ぼくが実際に島根県の「菅谷たたら山内」を訪れて見た本物の風景とはだいぶ違うなと感じる点があった。「もののけ姫」の中のタタラ場の炉は人間の身長の何倍もあるように見えるほどかなり巨大なものなのに、本物の「菅谷たたら山内」の中の炉は身長の半分くらいで体積もかなり小さめだったのだ!どう見積もっても実物の炉は、映画「もののけ姫」の中の異様に巨大な炉とは異なっていた。
一体どうして「もののけ姫」の中の炉は、実物よりもこんなに大きく描かれているのだろうか。実はそれに関して宮崎駿監督自身が本の中のインタビューで言及している。
・タタラ場の溶解炉のイメージは、中国の大躍進時代の溶解炉
宮崎駿監督は本「折り返し点」の中で次のように語っている。
あのタタラ場の溶鉱炉のイメージは、子供の時に写真で見た中国の大躍進時代のものなんです。溶鉱炉が黄色い大地にいくつも建っている写真を見ましてね、それがものすごく印象深かったんです。その後、日本の溶解炉はあんな格好ではないと知ったんですが、溶鉱炉はどうしてもあの格好にしたくて(笑)。しかも自分ではものすごく大きいものだと勝手に思ってたのですが、実際はかなり小さいものだったんですね。
なんとあのタタラ場の高殿の内部のモデルは、幼い頃に見た中国の溶鉱炉の写真だったという!そして日本の炉は全然異なる形で、もっと小さいことを知っていたものの、その中国の溶鉱炉の写真によって膨らませたイメージを表現したくてそのまま押し通したというのだった。事実よりもファンタジー要素を大事にしたということなのだろう。
・ジブリ映画は事実とファンタジー要素が入り混じっている
「もののけ姫」は歴史上の事実と、こう見せたら面白くなるというファンタジー要素の入り混じった映画だということがよくわかる。それは面白さの秘訣とも言えるのだろう。タタラ場の炉の大きさや形に関してもそうだが、タタラ場は実際な女人禁制だったので、映画の中のように女性がタタラ場で働くことはありえないことだったという。なんでもタタラ場の神様である金屋子神は嫉妬深い醜女の女神で、女性が出入りするのを極端に嫌い、良い鉄が取れなくなるという伝説があるらしい。
映画のどこの部分が詳細な事実に基づいているもので、どの部分が空想上や妄想上のファンタジー要素であるのか、見極めながらジブリ映画を楽しむという鑑賞方法もあるのかもしれない。
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