ドラえもん名作「パパだって甘えんぼ」!大人って可哀想だねというのは本当か?

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ドラえもん「大人って可哀想だね。」

ドラえもん名作「パパだって甘えんぼ」!大人って可哀想だねというのは本当か?

・ドラえもん珠玉の名作「パパだって甘えんぼ」
・「パパだって甘えんぼ」のあらすじ
・いつものように泣きわめかず、静かに孤独に悩む珍しいのび太
・強くたくましいはずの父親が赤ちゃんのように泣きわめく時
・ドラえもん「大人って可哀想だね」というのは本当か? 〜大人たちの秘密〜

・ドラえもん珠玉の名作「パパだって甘えんぼ」

ぼくが数多くあるドラえもんの物語の中で最も印象に残っているもののひとつに「パパだって甘えんぼ」という名作がある。「パパだって甘えんぼ」はちょっと他のドラえもんの物語とは異なった深刻で大人っぽい雰囲気に包まれている。あののび太の死んだおばあちゃんが出てくるという事実だけでも涙腺を刺激されそうになるが、「パパだって甘えんぼ」はおばあちゃんを無駄遣いせずに、子供でも大人でも心から感動してしまう稀有な名作に仕上がっている。

 

 

・「パパだって甘えんぼ」のあらすじ

「パパだって甘えんぼ」のあらすじは簡潔にまとめると以下の通りだ。

 

冒頭ではのび太が何かしらの悩みを抱え、いつも大好きなおやつも喉を通らないほど落ち込んでいる。いつもと違うのび太の様子を察知したママはのび太から話を聞き、のび太はママにひとりで抱えていた悩みを打ち明け、ママに泣きついて甘える。ママに悩みを聞いてもらって元気を取り戻したのび太はおやつを食べながら「たまには赤ん坊みたいに甘えてみたくなることもある。普段はガミガミうるさくてもやっぱりママだからね」とドラえもんに語る。

 

 

その日の深夜、パパがひどく酔っ払って帰ってくる。玄関で倒れて寝ていることを注意するのび太たちに向かって「親に向かって説教する気か!子供のくせに生意気だぞ!」と言い放ったことをきっかけに、のび太は「子供のくせにって言うのなら、親を出してやろう。タイムマシンでおばあちゃんのところへ行って叱ってもらおうよ」とドラえもんに提案する。かくしてドラえもんとのび太と、酔っ払って眠っているパパとの3人でタイムマシンに乗り込み、まだのび太のおばあちゃんが生きていた時代へとタイムスリップする。

 

 

おばあちゃんに叱ってもらおうとパパを連れていったのび太たちだったが、パパが死んだおばあちゃんを見た途端に「母ちゃ〜〜〜ん」と泣いてすがりつき、甘え出してしまう。おばあちゃんは何も責めずに「元気でやってるんだね、のび助」とパパを受け入れる。のび太はその様子に驚くが、ドラえもんが気を遣ってパパとおばあちゃんを部屋に2人だけにしてあげ、ドラえもんとのび太は屋根の上で時が過ぎるのを待つ。

 

おもむろにドラえもんが「大人って可哀想だね」と言い出す。のび太が「どうして?」と聞き返すと「だって辛いことや悲しいことがあっても、寄りかかって甘えたり、叱ってくれる人がいないんだもの」とドラえもんは続ける。のび太も「そうか、自分より大きなものがいないんだね」とドラえもんの説明に納得するのだった。

以下では考察を踏まえながら具体的に内容を掘り進めていこう。

 

・いつものように泣きわめかず、静かに孤独に悩む珍しいのび太

この作品「パパだって甘えんぼ」は他のドラえもん作品と何から何まで異なっていると、ぼくは幼い頃に見ていても感じていた。

まず冒頭ではのび太が何やら物思いにふけって悩んでいる。何か気になることがあり落ち込んでいるように見えるが、このようにのび太が自分の内側に悩みを抱えて誰にも言わず静かに悩んでいるだというだけでかなり珍しいことであり、他の回との明らかな違いを感じさせられる。他の回では0点をとったとかジャイアンにいじめられたとか犬に追いかけられたとか、のび太はとにかくありとあらゆる全ての悩みを泣いたり喚いたりドラえもんにすがりついたりして、その全身を使ってやかましく表現する傾向にあり、悩みをひとりで抱え込み深刻に物思いに耽るシーンなんて皆無に等しい。

しかしこの「パパだって甘えんぼ」の冒頭のび太は誰とも悩みを共有せず、親友のドラえもんにすら言うことなく、ただひとりきりで孤独に悩んでいるのだ。のび太はその悩みの大きさのあまり、いつもは大好きなおやつすら喉を通らない。そんなのび太のいつもと違った様子をママだけが敏感に感じ取り、「変ね、何か悩みでもあるのかしら」と心から心配する。一方で鈍感なドラえもんは「ウワハハハ!のび太くんに悩みが?!」と、まるでのび太が深い悩みを抱えるほど成熟した精神を持ち合わせているわけがないというようなあっけらかんとした失礼な態度をとり、深刻に物事を捉えるママとは対照的だ。

結局はドラえもんよりもママの方が正しかったのであり、ひとりきりで抱え込んでいた深刻な悩みを打ち明けたのび太はママにすがりつき、いつものように泣き出して甘える。ママはのび太の頭を撫でながら「もう泣かないで、心配しなくてもママに言えばいいのに」と優しくのび太に言うと、のび太は安心したように「本当に?」と笑う。ママは「当たり前よ、のび太のママだもの。これに懲りてもう二度としないことね」と、のび太を一切責めることをせずに、のび太が甘えることを許したのだった。

この回のドラえもんは割と失礼で無神経な役回りをしており、やっと悩みが解決したのび太に向かって「やーい!甘えんぼ!」とからかう。のび太は「なんだ見てたのか」と照れ笑いし、「時々は赤ん坊みたいに甘えてみたくなる時があるんだよね。普段はガミガミうるさいけど、やっぱりママだからね」とドラえもんに語る。ドラえもんは「ふーんそんなもんかね」と受け流し、のび太の悩みの具体的内容を尋ねたが「それはドラえもんには関係のないことなんだ!」とはぐらかされる。

結局のび太が何をあんなに深刻に悩んでいたのかは、視聴者ですら知ることができない。しかしこの「パパだって甘えんぼ」の真髄はのび太の悩みには関係がないことから、ぼくたちはそれを知ることができないことに不満を持つべきではないだろう。この冒頭の深刻に悩めるのび太の場面は、後に出てくるパパがおばあちゃんに甘えるという意外な場面の布石に過ぎないのだ。パパがおばあちゃんに甘える前に、のび太がママに甘える場面を映し出すことによって、人間というものは大人になってもそんなに変わらないものだということが暗示されていて興味深い。

 

 

・強くたくましいはずの父親が赤ちゃんのように泣きわめく時

おばあちゃんに泥酔したパパを叱ってもらうために過去の世界へとタイムマシンでやって来たのび太たち。おばあちゃんは小学5年生になったのび太が以前も過去の世界へ来たことを覚えており、のび太たちをあたたかく迎え入れる。のび太たちはおばあちゃんに「パパがもう酔っ払っちゃって仕方ないんだ!うーんと叱ってやって!」と事情を説明する。

おばあちゃんは了解し「これ!のび助や!起きなさい!」とパパに話しかける。酔っ払っているパパは最初のうちは「なんだとー!ぼくはこの家でいちばん偉いんだぞー!!」と相変わらずわめき散らしているが、正気に戻り死んだおばあちゃんが目の前に現れたことに気づくと、すぐさま涙目になる。「元気にやってるんだね、のび助」とおばあちゃんが優しく話しかけるや否や、パパはおばあちゃんの膝にうずくまり「母ちゃ〜〜〜ん!」と号泣を始めてしまい、のび太とドラえもんはあっけに取られてしまう。

この時ののび太の驚きは想像するのに難くない。父親というのは大抵の場合男の子にとって強く、たくましく、頼りになる存在だ。男の子は父親を眺めて人生の「男性像」のモデルにするとまで言われる。父親が泣くという姿を、子供はほとんど見ることがないだろう。そんな強くたくましいはずの父親が、今目の前で、赤ん坊のように母親の膝で泣いているというのは、ちょっと信じられない姿かもしれない。のび太とドラえもんは、パパとおばあちゃんの2人だけの世界を保つため、屋根へと上がっていく。ここからがこの回のクライマックスであり、ドラえもんの歴史上の名場面のひとつだ。

 

 

・ドラえもん「大人って可哀想だね」というのは本当か? 〜大人たちの秘密〜

ドラえもんとのび太は静かに街を眺めながら屋根の上に座っている。ドラえもんがおもむろにのび太に向かって「大人って可哀想だね」と言い出す。のび太が「どうして?」と尋ねると、ドラえもんは「だってつらいことや悲しいことがあっても、寄りかかって甘えたり、叱ってくれる人がいないんだもの」とのび太に答える。のび太もそれを聞き「そうか、自分より大きなものがいないんだね」と納得する。

幼い頃のぼくはこのシーンを見るといつでも涙が頬を伝ったことを覚えている。どうしてあまりに幼くて大人の気持ちもわからないはずの子供が、このシーンで何度も泣いてしまったのかわからない。けれど敏感な幼児の魂は、この「パパだって甘えんぼ」を通して、ドラえもんを作っている大人たちがドラえもんを見ている小さな子供達に向かって、人間の、そして大人の秘密を打ち明けてくれているような気がしてならなかった。

幼いぼくたちが受け取ったその秘密はいくつかあるように感じられる。そのひとつは、お父さんや大人の男性は強そうでしっかりとしたフリをして見せているけれど、本当は甘えん坊で、泣き虫で、大好きなお母さんに甘えたがるぼくたち子供と決して変わらないということだ。すなわち人間はどんなに大人になっても、成熟しても、しっかりと自立していても、根本のところでは何も変わらず、お母さんに守ってもらってただただ甘えたいだけの幼い少年のままだということだ。こんなこと、お父さんが子供に教えてくれるはずがない。お父さんは家庭内で威厳を保ちながら、かっこいいしっかりとした大人の男性を演じなければならないからだ。しかしその代わり、ドラえもんのアニメがぼくたち幼い子供に大人というものの正体を教えてくれていたのだ。自分の本当の姿を表現できずに、理想的な偽りの姿で社会と家庭で生きざるを得ない大人という生き物は、ドラえもんの言う通り「可哀想」なのかもしれない。

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もうひとつの秘密は、死んだお母さんに会えるのは泣きたくなるほど嬉しいということだ。「パパだって甘えんぼ」を見ている子供達のほとんどには、まだ甘えられるお母さんが生きていることだろう。しかし寿命の順番を考えれば、やがて大好きなお母さんとも別れなければならない時が子供には訪れる。ドラえもんの中ではパパが死んだおばあちゃんに出会えて号泣しているが、実際のこの世界にはドラえもんもいなければタイムマシンもないので、決して死んでしまった人に会うことはできないと断言できる。のび太のパパのように死んでしまったお母さんに会えることは号泣するほど嬉しいということは、言い換えれば、ドラえもんのいないこの世界においては死んだ人にはもう会うことができないので、大好きなお母さんは生きているうちに大切にしなければいけない、甘えられるときに大好きなお母さんに甘えておくべきだという、大人たちからの忠告なのかもしれない。信頼できて甘えさせてくれるお母さんがこの世から去ってしまった大人たちは、ドラえもんの言うように何かが欠けたように感じられる「可哀想」な存在なのかもしれない。

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また「パパだって甘えんぼ」が子供達に教えてくれる最大の大人の秘密は、まさに「大人は可哀想」ということだった。幼い子供達は、大人が可哀想だなんて微塵も思っていないに違いない。むしろ子供達にとって、大人というのは「可哀想」という言葉から最も遠く離れた場所で暮らしている存在だ。子供の自分のように叱られることもなく、それどころか好きなだけ子供に対して怒ることができ、やりたいことを制限されたり抑圧されたり禁止されることもなく、自由気ままにお金を使って思い通りに生きていて楽しそうだなぁという大人のイメージが、子供にはある。さらに大人は悲しいとか、苦しいとか、つらいとか、子供に向かって悩みを打ち明けることもなく、強くたくましい親を演じているから、余計に子供達が大人を可哀想に感じる機会なんてあるはずがない。大人は楽しそうで、気楽で、自由で、うらやましい。しかしそれは子供達の大きな誤解なのだと、他でもないドラえもんは教えてくれる。大人というものは、君たちが思っているよりも、ずっとつらくて、悲しくて、欠乏的で、可哀想な存在なのだと、ドラえもんの「パパだって甘えんぼ」を通して、それを作っている大人たちが子供達に向かって語りかけてくれているのだ。

それはおばあちゃんの膝でパパが号泣する姿を見ても、何となく察しが付く。死んだおばあちゃんに久々に出会えたからと言っても、あんなに激しく号泣するわけがない。パパは悲しかったのだ。悲しくて、悔しくて、つらいことが、社会を生きている上でなんぼでもあったのだ。しかし誰に向かってもその弱音を吐けなかったのだ。競争社会の中では弱みを見せたなら、悪意によって突き落とされるかもしれない。家庭では家庭で、のび太の前ではしっかりとした父親像を形成しなければならない。男と女では男の方が強いと世の中で思い込まされているから、ママに素直に甘えることもできない。大人の男というものは自分の弱さや、悲しみや、悔しさを、表現する場面を完全に遮断されているようだ。そのあまりの抑圧や遮断やストレスが心の中で風船のように膨張し切ったときに、少年の頃いくらでも甘えさせてくれた自分の母親を見て、一気に感情がなだれ込みあの号泣へと繋がったのではないだろうか。

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大人になってもつらいことや、悲しいことや、泣きたいことがいくらでもある。子供には見せないだけで、全ての大人はその内側にたくさんの涙を抱え込みながら生きているんだ。子供だからそんな大人の事情は知らなくてもいいけれど、せめてちょっとくらいはそういう大人の悲しい部分も思いやってほしい、そんな切実な思いが「パパだって甘えんぼ」からは伝わってくるような気がする。ドラえもんはまさに子供達にとって、人間社会の教科書だったのだ。

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