元々は使者という名の召使い?!不動明王が大日如来の化身だというのは本当か?

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不動明王は昔、不動使者だった!!!!!

元々は使者という名の召使い?!不動明王が大日如来の化身だというのは本当か?

・日本には怒りに満ちた不動明王像であふれている
・不動明王とは大日如来の化身である
・不動明王の怒りの本当の理由を考察
・不動明王は本来「不動使者」という大日如来の召使いだった!
・なぜ日本ではただの召使いの不動明王が大日如来の化身にまで出世できたのか

・日本には怒りに満ちた不動明王像であふれている

日本を旅していると、赤々と怒りに燃えた不動明王像にしばしば出くわす。不動明王ばかりではなくとも日本には背後に炎を滾らせて憤怒の表情をした「〜明王」という仏像が非常に多い。ぼくは喜怒哀楽の中でも怒りを最も神聖で美しいと感じる感性の人間であり、その感性が不動明王の怒りの炎と共鳴することから、直感的に不動明王にとても心惹かれてしまう。

日本において、不動明王とは一体どのような役割を持った仏像なのだろうか。

 

 

・不動明王とは大日如来の化身である

密教において、不動明王は大日如来の化身であると言われる。空海(弘法大師)が完成に導いた密教の理論では、仏教の究極の智慧は大日如来を中心とする5人の如来、すなわち五智如来によって全て網羅される。さらのこの智慧は5人の菩薩と5人の明王によって行動に移され、実際的な救済が行われる。この場合、五智如来は「自性輪身」、五菩薩は「正法輪身」、五大明王は「教令輪身」と呼ばれる。

ここでいう輪身の「輪」とは円盤状の武器のことで、仏教では人々の煩悩を打ち砕く力の象徴とされた。従って輪身とは人々の煩悩を打ち砕く身体を持つ者を意味し、さらに輪身には3種類あると考えられた。五智如来=「自性輪身」は真理そのものを身体とする者。五菩薩=「正法輪身」は慈悲に基づく救済活動を行う者、五大明王=「教令輪身」は強制力まで使って救済活動を行う者のことを指す。これらの三輪身が時や場所、対象に応じて最も適した輪身に変身して生きとし生ける者すべてを救済すると密教は主張するのである。

五智如来とは具体的に、大日如来、阿閦(あしゅく)如来、宝生(ほうしょう)如来、阿弥陀如来、不空成就(ふくうじょうじゅ)如来であり、それぞれ五大明王としての不動明王、降三世(ごうざんぜ)明王、軍荼利(ぐんだり)明王、大威徳(だいいとく)明王、金剛夜叉(こんごうやしゃ)明王に変身する。すなわち不動明王は大日如来の化身であり、五大明王のリーダー的な役割を担っている。

 

・不動明王の怒りの本当の理由を考察

以上は本に書かれていた学術的な内容だが、ぼくの中では不動明王=仏教に帰依しない者を力づくでも帰依させて救済するために怒っているという一般的な説明がイマイチ腑に落ちなかった。ぼくが心から納得できる不動明王の怒りの原因に出会ったのは、和歌山県高野山の仏教美術館「霊宝館」だった。それは不動明王のお顔は怒っているのではなく人々を救おうと”必死の形相””真剣な表情”をしているというものだった。

不動明王が怒っている本当の理由とは?!不動明王は仏教に帰依しない人を威嚇するために怒っているというのは本当か?

 

・不動明王は本来「不動使者」という大日如来の召使いだった!

不動明王が大日如来の化身というからには、ものすごく地位の高い仏像ということになるだろう。大日如来とは密教の中でも最も重要視されている本尊の仏像であり、この世の真理その者であると言われる。しかし不動明王の歴史を見ていくと、実は最初から地位の高い仏像ではなかったことがうかがえる。なんと最初は、大日如来のただの使い走りだったというのだ!

不動明王はインドの原始的な精霊神の夜叉(薬叉)から6世紀頃派生したと言われる。しかし元々は不動明王とは書かれておらず、最初は「不動使者」と呼ばれていたという。709年に唐の菩提流志が訳した「不動使者」という言葉が、不動明王を表現した最古の言葉として認められるものだという。使者という名前の通り、不動明王の元々の役割は言葉の呪力を持って密教の根本仏である大日如来に付き従い、”使い走り”もしくは”召使い”として如来の指示を伝える存在だったという。

使者という役割を強調させるために、原初の不動明王は童子の姿で表現されていることもあるという。奈良国立博物館所蔵の「胎蔵図像」の不動明王は子供の姿をしている。しかし時代が経つにつれ上記のように大日如来の教令を受けて、仏の教えに従わない衆生を力づくでも強化する役目を果たすべく、おそろしい憤怒相に変わっていったという。さらに空海の説く密教の論理により不動明王は大日如来の化身にまで高められていった。本来は大日如来の召使いだったのに、それが大日如来と同格になるなんてすごい出世だ!

 

 

・なぜ日本ではただの召使いの不動明王が大日如来の化身にまで出世できたのか

今世界で不動明王と同じ種類の仏を見られるのは、主に日本とチベット仏教圏だけだと言われている。チベット仏教圏で見られる怒りに燃えた不動明王は「護法神」と呼ばれ、元々はチベット土着の神々だったものが仏教に敗れ、仏教を守ると誓った存在であるという。つまり今なお仏の守護をするための役割を持ち、日本のように大日如来の化身という立場にはなっていないようだ。ただの召使いが大日如来と同格にまで高められたのは、日本だけではないだろうか。これは、それほどまでに日本では「怒り」という感情が尊重されていたという証だろうか。

日本人は元来自然崇拝で、日本土着の神々は自然そのものの化身であると言われる。さらに日本の神々には「荒魂」と「和魂」の2つの側面があるという。いつもは優しくて人々に豊饒な恵みをもたらしてくれる「和魂」の状態だが、時々めちゃくちゃに荒れ狂い全てを破壊してしまうという「荒魂」の側面も共に併せ持つという日本の神々は、まさに地震や台風や火山爆発の多い日本の大自然そのものだろう。

このように荒々しい怒りや破壊すら避けるべき「悪」だとは見なさずに、崇拝すべき神の一部として仕方なく受け入れるところに日本人の寛容で豊かな感性がうかがえる。何もかもを破壊してしまう荒々しい怒りさえ神の「荒魂」として尊重してしまう日本人の興味深い感性が、不動明王の燃え盛る怒りの感性と共鳴し、不動明王信仰を世界でも類を見ないほどに盛んにさせ、不動明王の地位を如来と同格にまで押し上げたのかもしれない。

 

 

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